飼い猫が死んだ

19年も生きた。私が一緒にいたのはそのうちの半分で、その前は同居人と一緒だった。連れ子だった。
1週間前は私の部屋のおろしたての絨毯にやってきてはガリガリと爪を研ぎ跳ね回るほど元気だった。数年前から口の1部に傷が出来ていて、かさぶたがとれることがなかった。年をとって抵抗力がなかったからだと思う。
そこからばい菌が入って体全身に回ってしまったんじゃなかろうか。気づくとでっぷりしていた体から肉がまったくなくなっていた。ご飯を食べることがなくなり、いつしか歩くのも足が震えるようになっていた。その痛々しいことといったらなかった。
2日前、いつになく大きな声で鳴いていた。苦しかったんだろうな。時折、血を吐いて猫マットが真っ赤になった。部屋中血の匂いが立ちこめた。少しでも離れると寂しそうに鳴くので同居人と交代でそばについていた。
昨日。まったく動かなくなった。呼吸するときにちょっとだけお腹が上下する程度だった。眼はぐっと開いたままだった。正月の買い出しに出かけて帰ってきたら、同居人に見守られてすでに亡くなっていた。
正直いって、猫を暮らすなんて想像もしていなかった。部屋中猫の毛があちこちつくし、外から帰ってくるから部屋が埃っぽくなるし、布団にも入ってくるから毛もつくし、嫌だなあと思っていた。当初は全然なつかなかったしね。
4年ぐらい経ってからかな、ようやく仲良くなった。寒い夜は布団に入ってくるようになったし、横になっていると背中やお腹に乗ってくるし、飯を食っていたら寄越せといわんばかりに手を出してくる。
寂しそうにしている同居人や私を見つけるとトコトコやってきてぺろぺろと舐めてくる。どうやら元気を出せといってくれていたようだ。2人がけんかをしていたら仲裁するように間に入ってきたりした。妙に人間くさい猫だった。
こんな日が来るなんて思ってもいなかったから、彼女の写真がほとんど撮っていなかった。ペット葬儀屋さんに「写真ありませんか」と聞かれてはっとした。
私の携帯は元気な頃の愛猫の顔だ。彼女がいないなんてやっぱりまだ信じられない。骨壺が眼の前にあるけれど、それでもね。部屋の扉を開けたらいつものように「にやぁ」って面倒そうに一鳴きして迎えてくれそうだ。
部屋を移動するたび、猫が通れるように完全に閉めないようにするクセがついているんだ。冬で寒くてもいつもちょっと開けていた。もう開けなくてもいいってわかっているけれど、つい出てしまう。同居人が苦笑いするんだけれど、こればっかりは当分直りそうにない。