保木 邦仁渡辺 明「ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか (角川oneテーマ21 C 136)」

ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか (角川oneテーマ21 C 136)ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか (角川oneテーマ21 C 136)
保木 邦仁 渡辺 明
2007-08
新書
by anzu_clip
対戦までの経緯やコンピュータ将棋の基礎などそつなくまとめられているが、逆にいままでの報道を追ってきたファンにとっての発見とか新事実がないと思うので、マニアは買わなくてもいいと思うよ。

本書は将棋から離れた、科学の話のほうが面白かった。

 ある基礎技術が、その後、どのような商品やシステムに応用されるかは想像がつかないことが多い。たとえば人工衛星が撮影した写真の細部を鮮明にするための画像処理技術が、その後、モザイク(マスク)処理を除去するためのシステムに応用された。

その後が二回出てくるは愛嬌ですが、宇宙とエロ(モザイクってそっちだよね?)の出会いが面白い。

 多くの方々は、科学的なものの見方や態度というものを毛嫌いしているように思う。私はそもそも口下手であるし、人に何かを説明するのは苦手だ。だから、何かを語ることには常に苦労が伴う。特に科学的な事象を説明する際には、できるだけ簡単に、単純化して説明する。それこそ本質が失われるくらいの簡略化を試みる。でも、そうすると誰もその話に興味を示さなくなる。だからと言って、しっかりとした説明をしようとすると、ほとんどの人が耳をふさいでしまう。科学者の悲哀かもしれないが、これには意気消沈する。

苦労しているんだな(笑)。

 「そんなことが何の役に立つのか」と考える人も少なくないだろう。しかし、先にも触れたように、何に役立つかを考えているだけでは、科学や技術の進歩はない。
 何に役立つかが簡単にわかるということは、すでにそれは既知の知識であり、予想範囲内の技術であることを意味している。むしろ、実用的な意味では何に役立つかがわからないような知識を吸収して、それを使って時間をかけて新しい何かを生み出すことにこそ、大きな価値があると思う。

今の世の中、余裕のある大企業かベンチャーじゃない限り、大きな発見は難しいのでしょうな。嗚呼。

追記:
いずれ出るのでしょうけれど、できればこの業界に詳しくない人が竜王や開発者にインタビューしたりしたものが読みたいなと。当事者や関係者が書いたものはどうしても偏向しがちだ。

内部事情を知らない人がコンピュータ将棋の進歩具合や、コンピューターチェスとの比較や、将棋村の世界や、ファンの現状やらを洗いざらい調べて倒して総括したもの希望。

現時点で有望なのは羽生三冠の思考回路を上手に解剖してみせた保坂和志だと思いますが、どうでしょうか。